ブッシュ大統領が遺産税撤廃を掲げた時に、遺産税がいかに反社会的であり、反道徳的であるかと強力なメッセージを発した。即ち、遺産税を支払うために、農家や中小企業が何代も続いた土地や事業を手放さなければいけないことは、何としても避けなければならないと言うことである。これはとてもわかりやすい言葉である。
しかしながら、本当に、遺産税を払うために、そのような状況に追い込まれた人々がいるのかどうかである。議会予算局はこの点について、IRSのデータで実証し、その結果を検証している。この内容を見ると2000年のベースでは、遺産税の対象となるのは300件で、150万ドルの控除を前提とすると、事業を手放さなければならないのは27件ということだ。これが今年のように200万ドルの控除があれば、影響を受けるのが15件と言う。
こうしてみると、年間27件とか15件のために遺産税を廃止し、財政悪化を招くことが許されて良いのかという疑問を持つ。ましてや、遺産税を払う人たちは金持ちである。金持ち優遇以外の何物でもないと言う批判が出るのもよくわかる。日本人から見れば、アメリカで遺産税は反社会的だと世の中の人が議論をするのは、とても興味深い。そもそも、世の中の大多数の人間にとって、縁のない世界の話である。その世界で、年間27件とか15件、事業を手放そうが全体にはほとんど影響がない。なぜ、所得の低い大勢の人たちまでが、関心を持って遺産税は反道徳的というのか。アメリカ人にとって、こうしたことはフェアでないという、その一点がアピールするのだと思う。事実よりか、理屈である。
この遺産税の話は、イラク戦争の開始にも通じているように思う。即ち、大量破壊兵器がイラクには存在するということが戦争開始の理由であったにもかかわらず、実際にそうしたものは発見されていない。遺産税にあっても同じ精神構造が見られる。つまり、フェアであると言うことが誰にとってなのか、誰がその恩恵を受けるのかと言うことが問題だ。
一方で、相続税を廃止すると言うのが、世界の流れになっているのも事実だ。既にアルゼンチン、オーストラリア、カナダ、インド、メキシコ、スイス、ロシア、スウェーデンが相続税のない国になっている。かつて私有財産を拒否していたロシアですら、相続税は正当ではなく、経済的には生産的ではないと相続税を廃止した。いまやアメリカがロシアよりもっと社会主義的な国となったのは皮肉なことだ。日本は相続税廃止と言う議論も聞かないだけに、アメリカよりさらに保守的な国と言うことだろうか。