ホテルに入って来たその人の風体はかなりかけ離れていた。どうみても着ているもののセンスも相当、普通の人からは際立って違う。帽子もかぶっていた。アメリカのご婦人は建物も中でも帽子は取らないのかもしれないが、その帽子が星条旗の柄の帽子である。年令は60歳を過ぎている位だろうか。彼女の周りの空気すら固まって動かないようにも見える。ホテルの従業員はまるで家来のような態度で接している。よく言えばものすごく威厳があり、別の言い方をすれば倣岸不遜な態度のようにも思える。とにかくこんな人には会ったことがないというくらいインパクトが強い。当然のこととして、知らず知らずのうちに、わが足は後ろずさりをして彼女から逃げようとしていた。